2024年11月3日
年間第31主日 マルコ12:28b~34

「あなたは神の国から遠くない」

 今日の福音朗読はマルコ福音書の12章からです。エルサレムに来られてから、ファリサイ人やサドカイ派、ヘロデ党の人々などがイエス様をおとしめようと様々な議論を仕掛けてきます。マルコ福音書にはそのような議論・論争に関して4つのエピソードを取り上げていますが、今日の箇所は他の人々のような悪意に満ちた論争ではなく、神様の教えの真髄を理解している1人の律法学者とイエス様の受け答えがとても興味深く思われます。

 旧約聖書の律法と呼ばれる掟は613もあり、またその一つ一つが、細則や実施にあたっての施行規則というように次から次へと細分化されてゆき、とても複雑でわかりにくいものになっていました。それゆえ、日常生活においても「これは律法や掟に適うものか、反するものか?」ということについて、ラビや長老たちの意見や指導に従わなければなりませんでした。その反動として、「要するに律法とは?」あるいは「律法の中で最も大切な掟は?」と、全律法の真髄を求める傾向がありました。しかし、律法や掟のどれ一つもゆるがせには出来ないはず、と考え、「どの掟が最も重要であるか?」についても意見は様々だったようです。

 イエス様の答えはあっけないほど明確です。「心を尽くして神を愛しなさい」と。この答えはイスラエルの人々が毎朝唱えていた祈りのことばなのです(申命記6:4以下参照)。イエス様の答えはもう一つの掟も同じ重さであると宣言します。「隣人を自分のように愛すること」も全律法の精神を表すものなのです(レビ19:18)。イエス様は古い律法の文言を組み合わせることによって、この「もっとも重要な掟は一つの掟の両面であり、新約の時代の掟となる」ことを指摘しているのです。質問した律法学者は、ユダヤ人を代表する信仰者でありながら、新約の信仰を受け入れ始めているように見える態度です。彼は「心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、隣人を自分のように愛することはどんな献げ物やいけにえよりも優れています」とイエス様の意図を正しく受け止めています。それゆえ、イエス様も「あなたは神の国から遠くない」と彼を認めています。しかし、このイエス様の答えにはもうひとひねりがあるのでは? とも思います。「神の国から遠くない」状態にとどまらず神の国に入るためには、「その理解していることを行うこと」が必要なのです。

【祈り・わかちあいのヒント】
*わたしたちはどのようなことを議論していますか?
*正しいとは思うけれどもなかなか実行できないことはなんですか?